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第5章 鑑定評価の基本的事項

不動産の鑑定評価に当たっては、
基本的事項として、
・『対象不動産』
・『価格時点』 及び
・『価格又は賃料の種類』
を確定しなければならない。


対象不動産の確定 価格時点の確定 鑑定評価によって求める価格又は賃料の種類の確定

対象不動産の確定

不動産の鑑定評価を行うに当たっては、まず、

  • 鑑定評価の対象となる土地又は建物等を物的に確定することのみならず、
  • 鑑定評価の対象となる所有権及び所有権以外の権利を確定する

必要がある。

『対象不動産の確定』は、
「鑑定評価の対象を明確に他の不動産と区別し、特定すること」であり、
それは不動産鑑定士が
・鑑定評価の依頼目的及び条件に照応する対象不動産 と
・当該不動産の現実の利用状況
とを照合して確認するという実践行為(§8「対象不動産の確認」)を経て
最終的に確定されるべきものである。

「対象不動産の確定に当たって必要となる鑑定評価の条件」を
『対象確定条件』という。

対象確定条件は、

  • 対象不動産(依頼内容に応じて次のような条件により定められた不動産をいう。)の所在、範囲等の物的事項 及び
  • 所有権、賃借権等の対象不動産の権利の態様に関する事項

を確定するために必要な条件である。

  1. 不動産が土地のみの場合又は土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として鑑定評価の対象とすること(現況を所与とする鑑定評価)
  2. 不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その土地のみを建物等が存しない独立のもの(更地)として鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を『独立鑑定評価』という。)。
  3. 不動産が土地及び建物等の結合により構成されている場合において、その状態を所与として、その不動産の構成部分を鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を『部分鑑定評価』という。)。
  4. 不動産の併合又は分割を前提として、併合後又は分割後の不動産を単独のものとして鑑定評価の対象とすること(この場合の鑑定評価を『併合鑑定評価』又は『分割鑑定評価』という。)。

対象確定条件により確定された対象不動産について、
依頼目的に応じ
対象不動産に係る価格形成要因のうち地域要因又は個別的要因について想定上の条件を付加する場合があるが、この場合には、依頼により付加する想定上の条件が
・『実現性』
・『合法性』
・『関係当事者及び第三者の利益を害するおそれがないか』
等の観点から妥当なものでなければならない。

一般に、
地域要因について想定上の条件を付加することが妥当と認められる場合は、
計画及び諸規制の変更、改廃に権能を持つ公的機関の設定する事項に主として限られる。

価格時点の確定

価格形成要因は、時の経過により変動するものであるから、
不動産の価格はその判定の基準となった日においてのみ妥当するものである。

したがって、
不動産の鑑定評価を行うに当たっては、
「不動産の価格の判定の基準日」を確定する必要があり、
この日を『価格時点』という。

また、賃料の価格時点は、
賃料の算定の期間の収益性を反映するものとして
その期間の期首となる。

価格時点は、
鑑定評価を行った年月日を基準として
・現在の場合(『現在時点』)
・過去の場合(『過去時点』)及び
・将来の場合(『将来時点』)
に分けられる。

鑑定評価によって求める価格又は賃料の種類の確定

価格

不動産鑑定士による不動産の鑑定評価は、
不動産の適正な価格を求め、
その適正な価格の形成に資するものでなければならない。

不動産の鑑定評価によって求める価格は、
基本的には『正常価格』であるが、
鑑定評価の依頼目的及び条件に応じて『限定価格』、『特定価格』又は『特殊価格』を求める場合があるので、
依頼目的及び条件に即して
価格の種類を適切に判断し、明確にすべきである。

なお、評価目的に応じ、
『特定価格』として求めなければならない場合があることに留意しなければならない。

正常価格

『正常価格』とは、
「市場性を有する不動産について、
現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する
適正な価格」
をいう。

この場合において、
現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場とは、
以下の条件を満たす市場をいう。

(1)市場参加者の合理性

市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、
参入、退出が自由であること。

なお、ここでいう市場参加者は、
自己の利益を最大化するため次のような要件を満たすとともに、
慎重かつ賢明に予測し、行動するもの
とする。

  1. 売り急ぎ、買い進み等をもたらす特別な動機のないこと。
  2. 対象不動産及び対象不動産が属する市場について取引を成立させるために必要となる通常の知識や情報を得ていること。
  3. 取引を成立させるために通常必要と認められる労力、費用を費やしていること。
  4. 対象不動産の最有効使用を前提とした価値判断を行うこと。
  5. 買主が通常の資金調達能力を有していること。

(2)取引形態の合理性

取引形態が、
・市場参加者が制約されたり、
・売り急ぎ、買い進み等を誘引したりするような
特別なものではないこと。

(3)相当期間

対象不動産が相当の期間市場に公開されていること。

限定価格

『限定価格』とは、
「市場性を有する不動産について、
・不動産と取得する他の不動産との併合 又は
・不動産の一部を取得する際の分割
等に基づき
正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、
市場が相対的に限定される場合における
取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を
適正に表示する価格」
をいう。

『限定価格』を求める場合を例示すれば、次のとおりである。

  1. 借地権者が底地の併合を目的とする売買に関連する場合
  2. 隣接不動産の併合を目的とする売買に関連する場合
  3. 経済合理性に反する不動産の分割を前提とする売買に関連する場合
  4. 借家人が貸家及びその敷地を買い取る場合 ←(基準にはない。)

特定価格

『特定価格』とは、
「市場性を有する不動産について、
法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、
正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における
不動産の経済価値を
適正に表示する価格」
をいう。

『特定価格』を求める場合を例示すれば、次のとおりである。

  1. 資産の流動化に関する法律又は投資信託及び投資法人に関する法律に基づく評価目的の下で、投資家に示すための『投資採算価値を表す価格』を求める場合
  2. 民事再生法に基づく評価目的の下で、『早期売却を前提とした価格』を求める場合
  3. 会社更生法又は民事再生法に基づく評価目的の下で、『事業の継続を前提とした価格』を求める場合

特殊価格

『特殊価格』とは、
「文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、
その利用現況等を前提とした
不動産の経済価値を
適正に表示する価格」
をいう。

特殊価格を求める場合を例示すれば、
・文化財の指定を受けた建造物
・宗教建築物 又は
・現況による管理を継続する公共公益施設の用に供されている不動産
について、
その保存等に主眼をおいた鑑定評価を行う場合である。

賃料

不動産の鑑定評価によって求める賃料は、
一般的には
・『正常賃料』 又は
・『継続賃料』
であるが、
鑑定評価の依頼目的及び条件に応じて『限定賃料』を求めることができる場合があるので、
依頼目的及び条件に即してこれを適切に判断し、明確にすべきである。

正常賃料

『正常賃料』とは、
「正常価格と同一の市場概念の下において
新たな賃貸借等(賃借権若しくは地上権又は地役権に基づき、不動産を使用し、又は収益することをいう。)の契約において成立するであろう経済価値を表示する
適正な賃料(新規賃料)」
をいう。

限定賃料

『限定賃料』とは、
「限定価格と同一の市場概念の下において
新たな賃貸借等の契約において成立するであろう経済価値を
適正に表示する賃料(新規賃料)」
をいう。

限定賃料を求めることができる場合を例示すれば、次のとおりである。

  1. 隣接不動産の併合使用を前提とする賃貸借等に関連する場合
  2. 経済合理性に反する不動産の分割使用を前提とする賃貸借等に関連する場合

継続賃料

『継続賃料』とは、
「不動産の賃貸借等の継続に係る特定の当事者間において成立するであろう経済価値を
適正に表示する賃料」
をいう。



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